東京地方裁判所 昭和28年(ワ)4091号 判決
原告 天野修一 外二名
被告 東京港湾倉庫株式会社
一、主 文
被告は、原告天野修一に対し別紙<省略>第一ないし第三目録表示の株式につき、原告杉山玉夫に対し別紙第四目録表示の株式につき、原告野口国蔵に対し別紙第五目録表示の株式につき、それぞれ各原告のため株主名簿の名義書換手続をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告ら訴訟代理人は、主文と同趣旨の判決を求め、その請求の原因として
「一、原告天野修一は、当時被告会社の代表取締役であつた訴外相場精一郎から、(一)昭和二十五年十二月二日に別紙第三目録その一表示の被告会社株式十万株、(二)同月六日に別紙第四目録表示の被告会社株式のうち、訴外窪谷朝之名義の一万株、相場精一郎名義の六千五百株、訴外比留間武名義の千五百株、同内田鎌太郎名義の三千株、同林余所吉名義の四千株、合計二万五千株、(三)同月十四日に別紙第二目録表示の被告会社株式のうち、窪谷朝之名義の三万六千二百株、比留間武名義の三万三千八百株、訴外赤川文郎名義の株券の記号番号乙第一九二一号より同第二二〇〇号までの二万八千株、林余所吉名義の株券の記号番号乙第五九七五号より同五九九四号までの二千株、合計十万株、(四)同月十五日に別紙第二目録表示の被告会社株式のうち、赤川文郎名義の株券の記号番号乙第二九二一号より同第三〇二〇号までの一万株(たゞし、その交付を受けたのは昭和二十五年十二月十四日である)、林余所吉名義の株券の記号番号第〇七三一号より第〇七四四号まで、第〇六五一号より第〇六七〇号まで、第〇七六三号より第〇七六八号まで及び第〇五七三号より第〇六〇〇号までの六千八百株、原告天野が後に証券会社を通じて処分した株券の記号番号不明の被告会社株式二百株、原告天野が後に訴外伊藤友衛に譲渡した株券の記号番号不明の被告会社株式三千株、別紙第一目録表示の被告会社株式二万株、別紙第五目録表示の被告会社株式のうち、訴外佐々木公平名義の二千株、同藤原之繁名義の五千五百株、同樋口吉造名義の株券の記号番号乙第四二二六号より同第四二三〇号まで、乙第四二七六号より同第四二八〇号まで、乙第四三〇六号より同第四三一〇号まで、乙第四四三一号より同第四四三五号まで及び乙第四四六一号より同第四四六五号までの二千五百株(この別紙第五目録表示の一万株の株券は昭和二十五年十二月十九日に交付を受けた)、合計五万株、(五)同月十九日に別紙第五目録表示の被告会社株式のうち、前記(四)の佐々木公平、藤原之繁及び樋口吉造名義のものを除くその余の四万株、(六)同月三十日別紙第四目録表示の被告会社株式のうち、前記(二)の株式二万五千株を除くその余の三万株、以上合計三十四万五千株につき、それぞれ株式名義人の白地裏書により譲渡を受け、その株券を受領した。
二、原告天野は、訴外加藤治三郎から、昭和二十五年八月二十一日に別紙第三目録その二表示の被告会社株式五千株につきそれぞれ裏書譲渡を受けて該株券を受領した。
三、原告天野は、前記一の(四)の被告会社株式のうち、二百株を昭和二十六年三月中旬ごろ証券会社を通じて処分したほか、相場及び加藤より譲渡を受けた被告会社株式のうち、三千株(前記一の(四)の一部)を訴外伊藤友衛に、別紙第五目録表示の五万株(前記一の(四)のうちの一万株及び(五)の四万株)を原告野口国蔵に、別紙第四目録表示の五万五千株(前記一の(二)の二万五千株及び(六)の三万株)を原告杉山玉夫にそれぞれ株式名義人の白地裏書のまゝで譲渡し、現に原告天野は別紙第一ないし第三目録表示の被告会社株式につき、原告杉山は別紙第四目録表示の被告会社株式につき、原告野口は別紙第五目録表示の被告会社株式につき、それぞれ右各株式を表彰する株券の適法な所持人である。
四、そこで、原告天野は、昭和二十六年六月二十二日別紙第一目録表示の被告会社株式二万株につき、同年七月二日別紙第二目録表示の被告会社株式十一万六千八百株につき、同二十七年一月三十日別紙第三目録表示の被告会社株式十万五千株につき、原告杉山は同二十六年六月二十七日、原告野口は同月二十二日、それぞれ右各株式につき、被告会社に対しそれぞれその株券を呈示して株主名義書換を請求した。ところが、被告会社は原告天野、同野口及び同杉山の請求に対しては、いずれも名義書換を拒絶している。そこで、原告らは被告に対し前記各株式につきそれぞれ原告ら名義に株主名簿の名義書換手続を求めるため、本訴に及んだ。」と述べた。
被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として
「(1) 請求原因一の事実のうち、相場精一郎がもと被告会社の代表取締役であつたこと及び相場が原告天野に対し、別紙第三目録その二の表示のものを除く本件株式を表彰する株券を交付したことは認めるけれども、その余の事実は知らない。
(2) 請求原因二及び三の事実は、すべて知らない。
(3) 請求原因四の事実は認める。」と述べ、抗弁として
「被告会社が原告らの名義書換請求を拒絶しているのには、次のような正当の理由がある。すなわち、
(一) もともと、本件株式はすべて相場が株主であるか又は株主より処分権を与えられていたものであるが、同人及び原告天野は昭和二十五年十一月上旬相協力して被告会社の株式を上場株とすることを計り、そのため、(イ)株式が非上場株から本上場株となるまで相場が原告天野より借り受ける債務の利息は日歩十六銭とし、その債務について振り出す手形は、株式上場まで書換えを継続すること、(ロ)本上場株となり払込金額(一株五十円)以上の株価を得れば、相場と原告天野がその超過額を折半すること、(ハ)相場の所有し又は処分権を有する被告会社株式は、相場がすでに他に担保のため差し入れてあるものについては債務を弁済して返還を受けたうえ、すべてその株券を原告天野に寄託すること、(ニ)原告天野は相場から寄託を受けた株券に表彰される株式を将来他に名義書換ならびに売買等一切しないことという約定で原告天野より相場において融資を受ける契約が成立し、右約旨に基き、相場は原告天野から同年十二月二日を初回として六回に亘り手形額面合計七百四十万円(たゞし利息手数料を差し引き、手取金六百三十八万三千円)を借り受け、本件株式を表彰する株券を原告天野に交付したものである。ところが、原告天野は、右約旨に反し、前記株式のうち二十四万千八百株を同原告の妻の兄である原告杉山に、うち五万株を原告天野の友人である原告野口にそれぞれ譲渡したとしてその旨の名義書換を求めて来たが、被告会社は相場からの通知により調査の結果、右事情にもとずき原告天野は本件株式につき株主権を取得していないし、原告野口及び同杉山は、原告天野において本件株式につき何ら権利を有しないことを知りながらその株券を取得したものであることを知つたので、原告らの右株式名義書換を拒絶したものであつて、原告らはいずれも被告会社の真実の株主ではなく、被告会社に名義書換の請求をすることはできないものである。
(二) 原告ら主張の本件株式はいずれも被告会社の資本増加の決議により発行されたものであるが、右資本の増加は真実株金の払込がないのに払込があつたものとして登記されたものに過ぎず、資本増加の効力を生ずることがないので、その株券もまた無効であるというべきである。
また、被告会社の株主名簿は、相場精一郎に対する刑事被告事件に関し浦和地方検察庁に押収されているから、いま直ちに原告らの請求に応ずることはできない。」と述べた。
原告ら訴訟代理人は、被告の抗弁に対し、
「抗弁事実(一)のうち、原告天野が相場に対し(1) 昭和二十五年十二月二日に弁済期を同二十六年一月三十日と定めて金二百五十万円、(2) 同二十五年十二月六日に弁済期を同二十六年二月三日と定めて金五十万円、(3) 同二十五年十二月四日に弁済期を同二十六年二月十一日と定めて金二百万円、(4) 同二十五年十二月十五日に弁済期を同二十六年一月十三日と定めて金百万円、(5) 同二十五年十二月十九日に弁済期を同二十六年二月十六日と定めて金八十万円、(6) 同二十五年(訴状に昭和二十六年とあるのは誤記と考える)十二月三十日に弁済期を同二十六年二月二十七日と定めて金六十万円をそれぞれ貸与したことは認めるけれども、相場より被告主張のような届出のあつたことは知らない。その余の事実は否認する。
原告天野が相場及び加藤から交付を受けた株券に表彰される株式は、いずれも、相場に対する前記各貸金債権及び加藤に対し原告天野が昭和二十五年八月二十一日に弁済期を同年八月三十日と定めて貸与した金八十六万円の貸金債権の担保として譲渡を受け万一、相場及び加藤において前記各弁済期に借受金の支払をしないときは、同人らはいずれも右株式を取り戻す権利を失い、原告天野においてこれを任意他に処分したうえ、その売得金をもつて弁済に充当し、或いは右株式を原告天野名義に書換えをしても異議がないことを約したものである。ところが、相場及び加藤はいずれも前記各弁済期を徒過して、前記借受金の支払いをしなかつたので、相場及び加藤はいずれも前記株式を取り戻す権利を失つたものである。
抗弁事実(二)のうち、株主名簿が浦和地方検察庁に押収されていることは知らない。本件株式がいずれも昭和二十五年二月十五日の被告会社における資本増加の決議にもとずいて発行されたものであることは認めるが、その株金の払込は完全になされている。」と述べた。
<立証省略>
三、理 由
一、原告天野が昭和二十五年十二月ごろ相場精一郎より、別紙第一、第二、第三その一、第四及び第五目録表示の被告会社株式合計三十四万千八百株を表彰する株券の交付を受けたことは被告の明かに争わないところであり、また、請求原因四の事実は当事者間に争いがない。
これらの事実に成立に争いのない乙第一ないし第五号証(たゞし右に確定した事実と牴触する部分を除く)、同第十一、第十二号証の各二、同各書証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める同第十一、第十二号証の各一、証人相場精一郎の証言及び原告天野修一本人尋問の結果を考え合わせると、原告天野は相場から(1) 昭和二十五年十二月二日に別紙第三目録その一表示の被告会社株式十万株、(2) 同月六日に別紙第四目録表示の被告会社株式のうち、請求原因一の(二)の二万五千株、(3) 同月十四日に別紙第二目録表示の被告会社株式のうち、請求原因一の(三)の十万株及び別紙第二目録表示の被告会社株式のうち、請求原因一の(四)の赤川文郎名義の一万株、合計十一万株、(4) 同月十五日に別紙第二目録表示の被告会社株式のうち、請求原因一の(四)の林余所吉名義の六千八百株、別紙第一目録表示の被告会社株式二万株、後に原告天野が証券会社を通じて処分した二百株及び伊藤友衛に譲渡した三千株、合計三万株、(5) 同月十九日に別紙第五目録表示の被告会社株式のうち、請求原因一の(四)及び(五)の合計五万株、(6) 同月三十日に別紙第四目録表示の被告会社株式のうち、請求原因一の(六)の三万株につき、いずれも裏書人調印欄に当該株式名義人の捺印のある株券の交付を受けたこと、原告天野は加藤治三郎から昭和二十五年八月二十一日に別紙第三目録その二表示の被告会社株式につき、その株式を表彰する株券にそれぞれ株式名義人の裏書を得てその交付を受けたこと及び原告天野は相場及び加藤より交付を受けた被告会社株券のうち、別紙第五目録表示の五万株を原告野口に、別紙第四目録表示の五万五千株を原告杉山にそれぞれ株式名義人の前記捺印のあるまゝで交付し、現に原告天野は別紙第一ないし第三目録表示の、原告杉山は別紙第四目録表示の、原告野口は別紙第五目録表示の各被告会社株式につき、それぞれ右株式を表彰する株券を占有していることを認めることができ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
そうして、株券の裏書による記名株式の譲渡において、裏書人の捺印だけで記名を欠く場合は、裏書人は株券の交付と同時にその記名の補充権を譲受人に委託したものと解し、その補充権は株券とともに輾転し、株券を取得したものがこの補充権を取得するものと解するのを相当とするから、原告天野が相場から交付を受けた前記株券の裏書も、記名株式の譲渡方法である白地裏書として適法のものというべきであるから、商法の一部を改正する法律施行法(昭和二十六年法律第二百十号)第十一条、商法第二百五条手形法第十六条により原告天野、同杉山及び同野口は被告会社の前記各株式につき、それぞれ適法の所持人としてその株式を表彰する株券を占有するものと、反証がない限り推定すべきものである。
二、ところで、請求原因四の事実は当事者間に争いがないので、被告の抗弁事実について検討しよう。
(1) 抗弁事実(一)について。抗弁事実(一)のうち、相場が原告天野より昭和二十五年十二月二日を初回として六回に亘り合計金七百四十万円を借り受けたことは当事者間に争いがなく、原告杉山が同天野の妻の兄で原告野口が同天野の友人であることは原告の明らかに争わないところであり、また、相場から被告会社に対し、原告天野において相場より交付を受けた前記被告会社株式のうち合計三十四万二千株につき詐取株式として名義書換停止届が提出されていたことは証人相場精一郎の証言に徴し真正に成立したものと認める乙第六号証によつて認めることができるけれども、右金員借受けに際し被告主張のような約定があつたとの点については、前記乙第一号証及び証人相場精一郎、同林余所吉の各証言中、右主張に符合する部分は成立に争いのない甲第一ないし第六号証及び原告天野修一本人尋問の結果に徴し、なお、右主張を肯認するに足りる確証とはいゝ難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、その他、原告らがその主張の本件株式につき正当な株主権者でないことの主張立証がないから、右主張事実を前提とする被告の抗弁(一)は採用し難い。
なお、原告天野が加藤から譲渡を受けたと主張して現に所持する前記五千株分については、前記認定の交付時期からいつて、被告の抗弁はそれ自体理由がないというべきである。
(2) 抗弁事実(二)について。抗弁事実(二)のうち、原告主張の本件株式がいずれも被告会社の資本増加の決議にもとずいて発行されたものであることは当事者間に争いがないけれども、成立に争いのない甲第十三号証によれば、被告会社の資本増加の決議は昭和二十三年九月一日、同二十四年十月十日及び同二十五年二月十五日に、資本増加の登記はそれぞれ同二十四年四月十八日、同年十一月十八日及び同二十五年四月十七日になされていることが認められ、仮に被告主張のように右増資決議にもとずき発行された株式につき株金の払込がなされなかつたとしても、旧商法第三百七十一条によれば、右資本増加の無効は本店所在地において資本増加の登記をした日より六ケ月内に訴をもつてのみ主張することが許されているに過ぎないから、被告の抗弁(二)のうち右資本の増加が無効であることを前提とする部分は採用の余地がない。
また、仮に、被告主張のように、被告会社の株主名簿が相場精一郎の刑事被告事件に関し浦和地方検察庁に押収中であるとしても、刑事訴訟手続上押収物の還付ないし仮還付を受け或は押収物の閲覧、謄写によりこれを再製する等の余地があることは当裁判所に顕著な事実であつて、被告会社につき右のような方策が不可能であるとの主張、立証はないから、被告の抗弁(二)のうち右主張部分もまた採用しない。
三、結局、被告会社が原告らの本件名義書換請求を拒絶するについて正当の理由があるとは認め難く、原告らの本訴請求はすべて正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 畔上英治 岡田辰雄 西村法)